「自分のフィットネスは今どのくらい?」「あと何週間でレースに仕上がる?」 — これらの問いに数値で答える指標が CTL / ATL / TSB です。元はサイクリング向けに Andrew Coggan が体系化した負荷モデルが、ランニングでも標準化され、TrainingPeaks や CoachPad などのプラットフォームで自動計算されるようになりました。JSPO公認アスレティックトレーナーの視点で、3指標の意味・算出・実践活用を完全解説します。
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1. 3つの指標の定義
- CTL(Chronic Training Load / 慢性負荷):過去42日間のトレーニング負荷の指数加重移動平均。あなたのフィットネス能力を表す。
- ATL(Acute Training Load / 急性負荷):過去7日間の指数加重移動平均。あなたの現在の疲労を表す。
- TSB(Training Stress Balance):CTL − ATL。あなたの仕上がり度(フォーム)を表す。
これらは Andrew Coggan が2003年にサイクリングの計測指標として体系化したのが原型 (Coggan, 2003; Allen & Coggan, 2010)。今ではランニングに広く転用されています。
2. TSS(Training Stress Score)の算出
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CTL / ATL / TSB を計算するための基礎単位が TSS(Training Stress Score) です。1回のトレーニングがどれくらいの負荷だったかを数値化します。
2-1. ランニング向け:hrTSS(心拍ベース)
心拍データから算出する方法。Joe Friel が推奨。LTHR を100%基準にして、各心拍ゾーンに重みづけして算出します。Garmin・CoachPad などが自動算出。
2-2. ランニング向け:rTSS(ペースベース)
閾値ペース(LT走ペース)を100%基準にして算出。心拍計を持たないランナーでも使える。
2-3. TSS の感覚値
- 30〜60 TSS:軽いジョグ(30〜60分 Zone 2)
- 80〜120 TSS:ポイント練習(LT走など)
- 150〜200 TSS:ロング走 90〜120分
- 250+ TSS:フルマラソン
3. CTL / ATL / TSB の動き方
毎日の TSS が積み上がって、CTL(42日移動平均)と ATL(7日移動平均)が動きます。
- 練習が続けば → ATL先に上昇 → CTL も漸増 → TSB マイナス側に
- 休養日が続けば → ATL先に低下 → CTL ゆっくり低下 → TSB プラス側に
4. TSB 値の解釈
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- TSB < −30:過度な疲労状態。故障リスク高。
- TSB −30 〜 −10:負荷をしっかりかけている、トレーニング期に望ましい範囲。
- TSB −10 〜 +5:ニュートラル。レース1週間前の理想ゾーン。
- TSB +5 〜 +25:レース当日の最適ゾーン。
- TSB +25 超:テーパー過多。フィットネス低下が始まっている。
5. 実践的な使い方
5-1. 週次計画への組み込み
- 週合計 TSS = 過去4週の平均 ±10% を目安に
- 急増(前週比 +30%超)は故障リスク (Gabbett, 2016)
- 4週間に1度「リカバリー週」(TSS −30%)を入れる
5-2. レース3週間前からのピーキング
- −3週:通常の70%、強度維持
- −2週:通常の50%、強度維持
- −1週:通常の30%、最後にショート練のみ
- レース当日:TSB +10〜+20
6. ツール
- TrainingPeaks:業界標準。月額有料(PMC = Performance Management Chart)
- Garmin Connect:Forerunner 上位機種でフィットネスと疲労を自動計算
- CoachPad:合同会社コアデザインのオンラインコーチング専用プラットフォーム。CTL/ATL/TSB を自動算出
- intervals.icu:無料のオープンソース代替
7. よくある質問
Q1. CTL は数値が高いほど良い?
はい、ただし「上限」があります。サブ3市民ランナーで CTL 80〜100、エリート市民で 120〜150 が典型範囲。これを超えると故障リスクが急上昇します。
Q2. 心拍計を持たない場合は?
rTSS(ペースベース)で代替可能。ただし LT走ペースの把握が前提なので、20分TT は必要。
Q3. 旅行・出張で1週間練習できない
CTL は1週間で 7〜10ポイント低下します。月の中の1週間程度なら影響軽微。3週間以上だと再構築に時間がかかります。
8. まとめ
- CTL(フィットネス)/ ATL(疲労)/ TSB(仕上がり)の3指標で自分の状態を可視化
- TSS = 1回の練習負荷スコア。hrTSS or rTSS で算出
- レース当日の TSB +5〜+20 を狙ってピーキング
- 急性負荷の急増(+30%以上)は故障リスク
- CoachPad など自動計算プラットフォームで効率管理
References / 参考文献
- Coggan AR. (2003). Training and racing using a power meter: An introduction. Level II Coaching Manual, USA Cycling.
- Allen H, Coggan AR. (2010). Training and Racing with a Power Meter (2nd Ed.). VeloPress.
- Gabbett TJ. (2016). The training-injury prevention paradox. Br J Sports Med, 50(5):273-280. PubMed
- Banister EW. (1991). Modeling elite athletic performance. Physiological Testing of Elite Athletes, 403-424.
- Halson SL. (2014). Monitoring training load to understand fatigue in athletes. Sports Med, 44 Suppl 2:S139-147. PubMed
- Bourdon PC, Cardinale M, Murray A, et al. (2017). Monitoring athlete training loads: consensus statement. Int J Sports Physiol Perform, 12(Suppl 2):S2-2. PubMed
- Friel J. (2009). The Triathlete’s Training Bible (3rd Ed.). VeloPress.