心拍トレーニングの基準値となる LTHR(乳酸性作業閾値心拍数)を、ラボに行かず自宅近くのトラックや平坦コースで測定する方法 — それが「20分全力走テスト」(20分TT)です。バイクのFTPテストとしても定番のこのプロトコルを、ランニング向けに完全手順化しました。誰でも当日から実施できる、テスト前24時間〜当日〜後処理までを通したガイドです。
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1. 20分全力走テストとは何か
20分全力走テスト(20-minute Time Trial / 20分TT)は、Joe Friel が体系化した LTHR・LTペースの簡易測定プロトコル です (Friel, 2009)。20分間「最後まで継続可能な最大強度」で走り、その後半データから閾値の心拍・ペースを算出します。研究レベルの精度はラボでの漸増負荷テスト(採血式)に劣りますが、市民ランナーが3〜4ヶ月ごとに再現性高く測定するには十分な精度があります (Faude et al., 2009)。
2. 必要なもの
- 胸ベルト式心拍計(光学式は不可・誤差大)
- GPSウォッチ(ラップ機能必須)
- 平坦かつ信号停止のないコース(陸上トラック推奨 / 河川敷可)
- 気温 5〜20℃ の日
- 食後 2.5〜3時間以上空けた状態
- 前日に LSD・ポイント練を入れない(4〜5日前から負荷を抑える)
3. プロトコル — 完全タイムライン
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3-1. テスト前48時間
- −48時間:高強度練・ロング走は禁止
- −24時間:軽いジョグ20分 + 流し 3〜4本まで
- 当日朝:糖質中心の食事(うどん・米・パン)を 3時間前までに
- カフェイン:普段飲む人は通常通り。新規試行は禁止
3-2. ウォームアップ(合計20分)
- Zone 1 ジョグ 10分
- 動的ストレッチ(レッグスイング・スキップ・ハイニー)3分
- Zone 3 ペースで 3分(身体に閾値直下の感覚を呼び戻す)
- レスト 2分(深呼吸)
- 100m × 2本の流し(80〜90%)
- レスト 2分 → スタート位置に
3-3. 本走 20分(最重要)
- 最初の5分:抑え気味(85%程度の感覚)。多くの人がここでオーバーペース→後半失速。
- 5〜15分:「最後まで維持できそうな最大ペース」を探る。
- 15〜20分:少しずつ上げてラストスパート。
- ラップ機能を使うなら20分間1ラップ、もしくは 5分ごとに区切る。
3-4. クールダウン
- Zone 1 ジョグ 10〜15分
- 水分・電解質補給
- シャワー前にカーフ・ハム・QL のストレッチ 5分
4. 結果の算出方法
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4-1. LTHR の算出
テスト後、GPSウォッチのデータを Garmin Connect / COROS / Strava で開きます。後半20分の平均心拍数がほぼあなたの LTHR。実際は「20分テストなので後半 = 全体だが、初心者は最初の5分で抑える分を補正するため、後半10分平均を採用する」方法もあります。
例:20分TT 全体平均 165bpm → LTHR ≈ 165bpm。 これを基準に Zone 1〜5 を算出。
4-2. 閾値ペース(LT走ペース)の算出
20分TTの平均ペース × 1.05がおおよその「LT走ペース」になります。例えば 20分TT 平均が 4:30/km なら、LT走ペースは 4:43〜4:45/km 前後。
4-3. ゾーンマップ作成
得られた LTHR から、本サイトの心拍トレーニング完全マニュアルに従って5ゾーンを設定。CoachPad のような自動計算プラットフォームを使うと一発で出ます。
5. よくある失敗パターン
失敗1:最初の5分でオーバーペース
結果として後半急失速し、テスト結果が実力より低く出る。「最初の5分は『抑えすぎ』と感じるくらいが正解」。
失敗2:光学式心拍計を使う
高強度域では振動・血流変化で誤差が大きくなる (Gilgen-Ammann et al., 2019)。胸ベルト式必須。
失敗3:暑い日・寒い日にやる
30℃以上では心拍が異常に高く、5℃以下では筋温が上がりきらず値が低めに出ます。気温 5〜20℃ の日を選んでください。
失敗4:頻繁にやる
20分TT は身体への負荷が大きい高強度練です。3〜4ヶ月に1回で十分。やりすぎると測定そのものが疲労源になります。
失敗5:寝不足・前日飲酒
HRV低下下では心拍応答が乱れます (Plews et al., 2013)。日程をずらす勇気を持ってください。
6. よくある質問(FAQ)
Q1. 30分TT との違いは?
Joe Friel の原典は30分TTで、後半20分平均を採用します。市民ランナーには負荷が大きいため、20分TT で簡略化しても精度差はわずかです。
Q2. トレッドミルで実施してもOK?
OK。ただしトレッドミルは 1.0%の傾斜を設定すると屋外と近くなります (Jones & Doust, 1996)。
Q3. テスト中、心拍が上がりきらない
2つの可能性があります:①ウォームアップ不足、②心拍計の接続不良。ベルトを濡らす・電池確認を。
7. まとめ
- 20分TTで LTHR・LT走ペースを簡便に測定可能。
- 胸ベルト式心拍計必須。光学式は不可。
- ウォームアップ20分 + 本走20分 + クールダウン10分。
- 気温 5〜20℃、睡眠十分、食後3時間以上空ける。
- 3〜4ヶ月ごとに再測定。
20分TT を年3〜4回行えば、あなたのフィットネスの進化曲線が数値で見えます。次の心拍トレーニングの基準を、ぜひこのプロトコルで作ってください。
References / 参考文献
- Faude O, Kindermann W, Meyer T. (2009). Lactate threshold concepts. Sports Med, 39(6):469-490. PubMed
- Friel J. (2009). The Triathlete’s Training Bible (3rd Ed.). VeloPress.
- Jones AM, Doust JH. (1996). A 1% treadmill grade most accurately reflects the energetic cost of outdoor running. J Sports Sci, 14(4):321-327. PubMed
- Gilgen-Ammann R, Schweizer T, Wyss T. (2019). RR interval signal quality of a heart rate monitor and an ECG Holter at rest and during exercise. Eur J Appl Physiol, 119(7):1525-1532. PubMed
- Plews DJ, Laursen PB, Stanley J, Kilding AE, Buchheit M. (2013). Training adaptation and heart rate variability in elite endurance athletes. Sports Med, 43(9):773-781. PubMed
- Coyle EF. (1995). Integration of the physiological factors determining endurance performance ability. Exerc Sport Sci Rev, 23:25-63. PubMed
- Allen H, Coggan AR. (2010). Training and Racing with a Power Meter (2nd Ed.). VeloPress.